COMMENTS敬称略・順不同
遠山純生(映画評論家)
ハリウッドが商業主義にふり切れる1980年代の手前。作り手の自主性が尊重され、映画が現実に肉迫しつつあった時代。そんな時代に作られた今回の上映作五本には、メジャースタジオ製作映画もあれば完全独立製作映画もある。人種間の軋轢がギャング側とこれを追う警察側の双方で加熱する、撮影録音技術の点でも革新的な『110番街交差点』。犯罪映画で鳴らした日米のスタジオが協力し、アメリカ人私立探偵と日本人元やくざの仁義を任侠映画に敬意を表しつつ描いた『ザ・ヤクザ』。ヴェトナム戦争時代の精神病院を舞台に、奇矯な風刺喜劇が生の苦悩と信仰をめぐる深刻なドラマへと転調する怪作『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』。そしてジョゼフ・ウォンボーのロス市警小説に基づいた二本の映画。警官たちの人間模様を彼らが抱える弱さ共々写実的に綴った『センチュリアン』の悲劇的な最後は、二人の俳優ステイシー・キーチとスコット・ウィルソンを介して『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』の神秘的な最後に重なる。もう一本は、今回初公開となる『オニオン・フィールド』。原作者肝煎りの、見ごたえある重厚な実録犯罪映画である。
『110番街交差点』
藤田正(音楽評論家)
長年忘れられない一作です。特別な「バイオレンス・ノワール」。剥き出しのNYハーレム、軽すぎる暴力、逃げ場のない絶望────そのすべてが胸に刺さります。半世紀を経ても色あせない、骨太のリアリズム映画です。
『センチュリアン』
早川由真(映画研究者)
ド派手な爆発はないし、血飛沫もない。
普通の警官たちのひたすら危険な夜がある。
ジョージ・C・スコットの嘘みたいな笑顔があり、
ステイシー・キーチの虚ろな瞳がある。
娼婦たちの嗜むスコッチとミルクがあり、
バーベキューソースで汚れたネクタイがある。
唐突に放たれるショットガンがあり、
恐ろしく胸に迫る夫婦喧嘩がある。
でも、感動を押し売りする嫌らしさはない。
『センチュリアン』は傑作である。
『ザ・ヤクザ』
渡部幻(映画評論)
『ザ・ヤクザ』は、ブルース・リーの死後、ポール・シュレイダーと兄レナードが書いた脚本で、監督のシドニー・ポラックは、『ひとりぼっちの青春』『大いなる勇者』『追憶』などでニューハリウッドを代表する“顔”の1人だった。『ザ・ヤクザ』は、ポラック『追憶』に通じる内に秘めた心模様のドラマであると同時に、クライマックスの“殴り込み”では任侠映画を踏まえながら、『タクシードライバー』『ローリング・サンダー』に連なる“ポール・シュレイダー的イメージ”の原点ともなった。